ある交通事故損害賠償事件

1、交通事故事件

私は交通事故の損害賠償事件の担当が多い。以前損害保険会社の顧問をしていた関係で一時は加害者側の事件も担当していたので最盛時は同時期に交通事故事件だけで10件位は担当していた。その中でも被害者側の事件は、加害者側の事件と違って証拠収集に協力してくれる保険会社のスタッフのような人達がいないし、日本の法律事務所には事件の調査をしてくれる調査員はいないので、弁護士自身が自分で事故現場に何遍も出向いて証拠収集せねばならず困難さはあるが、それだけに、努力の甲斐があって良い結果が出たときのうれしさはひとしおで、弁護士冥利に尽きると思えるときがある。

2、事件発生

だいぶん昔の事件である。A君は私立高校の受験に合格し、希望に燃えて通学し始めたその年の7月に事故にあった。A君は自宅から最寄りの駅まで自転車で通学していたのであるが、後ろから来た乗用車に追突された後、ボンネットですくいあげられ5、6メートルそのまま走られ地面に落とされたのである。A君は事故直後から意識がなく、病院でも一時は生命が危ないという判断であったが、若さのためか奇跡的に4ヶ月目に意識が回復した。入院は9ヶ月に及んだ。翌年4月には復学したものの、頭部損傷による知能の低下、記憶力の低下、四肢の麻痺、言葉が喋り難いなどの後遺症が顕著で授業についていくことができず、退学せざるを得なかった。 A君の両親が相談に来られたときは自賠責保険の被害者請求の手続中であったが、診断書だけではA君の後遺症は12級と認定される可能性が高かった。交通事故の事件では自賠責保険調査事務所で後遺症が何級に認定されるかでかなりの部分が決まってしまう。そこで主治医に意見書を書いて貰い、私の意見書も出したところ、5級の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当すると認定された。後遺症の等級が決まったのでいよいよ訴訟を提起した。 争点は損害と過失相殺であったが、加害者側は、損害については、A君は軽易でない労務に就労可能であると主張し、過失相殺については、制限速度を守って走っていたところへA君の自転車が急に右に寄ってきたので避けられなかったのであり、加害者が不起訴になっていたことから加害者の過失は小さいのに対し、A君には重大な過失があると主張した。

3、裁判

本件事件には目撃者はおらず、A君には事故当時の記憶は全くない。加害者の運転手がこういう状況を利用して真実を述べなかったために刑事処分は不起訴になった可能性が高い。そこで加害者の本人尋問でとことん叩くことによって加害者の過失を立証することにした。現場に何回となく足を運んだ。するとA君の通学の経路状況からすれば、加害者の言うような地点でA君が急に車の方に寄って行くことはまず考えられないという確信が次第に湧いてきた。後は加害者を法廷で思い切り叩くだけである。 反対尋問は成功し、午前8時頃で車の少ない時間帯にしかも対向車も来ていないのに時速40キロメートルの制限速度を守っていたというのは疑わしいこと、特に加害車両は坂になっていたのでかなりスピードを出していた可能性があること、A君は両親から左側運転を守るように言われていたのでいつも安全運転を心がけていたこと、片側1車線で対向車はない道路を先行する自転車を後ろから車が追い越す場合には自転車との間隔を可能な限りあけるべきであることなどを加害者の被告本人尋問を通じて裁判所にわかってもらうことが出来た。坂道の角度については測量士に測量してもらい裁判所に提出した。それとこの事件はどうしても現場をみてもらいたいと思い、渋る裁判所を説得して現場検証も行ってもらった。就労の程度については、A君自身に法廷に立って自ら証言してもらった。

4、判決

裁判所は、就労の程度については、原告の主張どおり5級相当の後遺症があると認定し、そして過失相殺については、目撃者もおらず、事故についてはA君の記憶は全くなかったにもかかわらず、A君に15%の過失を認めただけで加害者に85%の過失があると認定し、判決はほぼ全面勝訴に近い内容であった。 加害者側は控訴を断念し、この損害賠償事件は解決した。

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